オンリーイベントの恐怖(3)

 さてここから登場人物が一気に増えるので、登場人物のざっくりした紹介とこの世界の舞台についておさらいをしておこうと思う。

 

登場人物

・俺-これを書いている中の人。俺と言っているが体は女性、心は男性のトランスジェンダー。自覚症状はあったがそれを表立って言えるようになったのは5~6年前という近況っぷり。

・名さん-中部地方に住んでいる人。ゲームA同人サークル友達がきっかけで俺をゲームBの世界に引き込んだ沼住人。当時はそう思っていなかったが割とヤンデレ。以前使っていたX垢ではフォロワーだったが今現在は絡んでない。後述するゆーさん主催の友の会メンバーの一人。

・Wさん-静岡在住の人。今現在もミクシィ(笑)で繋がりがある。現在もサークル活動をしている大先輩。ゲームAでサークル活動をしていたことがきっかけで仲良くなり、俺がゲームBに引き込んだ一人。毎週ゲームBで遊び、コミケで会うと「またゲームBで会おうね!」が口癖になっていた。

・東さん-東京都に住んでた人。実家が広い家だったのか、よく遠方からゲームAのオンリーイベントに来る同人友達を泊めていた。この後の紹介のゆーさん繋がりでできた友の会メンバーの一人。さっぱりとした性格で当時出ていたPCゲームのBLゲーを推していたのを覚えている。姉御肌。ゲームBではほとんど会っていない。

・ゆーさん-東さんととても仲が良かった人。この話に出ていた当時は四国に住んでいたがその後都内に移り住んだという話を聞く。当時ゲームAのファンを集めた友の会を作って毎月会誌を出していた。俺も参加していた。おっとりとした人。ゲームBでも一緒にたま~に遊んでいた。

・にーさん-中国地方に住んでいた人。にーさんというが女性。ゲームAはシリーズ初期から遊んでいる人でWさんとほぼ同世代(若干下かもしれない)。後々俺にとんでもねー事をしてくる人(笑)。ゲームBでは毎週一緒に遊んでいた。ゆーさん主催友の会メンバーの一人。

・沖さん-沖縄県在住の人。現在もTwitter(X)で繋がりがある数少ない当時を知る一人。ゲームA好きが繋がりでオンリーイベントを経て俺とも交流をするようになった。ゲームBでも毎週末遊んでいた。友の会メンバーの一人。第一の事件では大きく絡んでくる。

 

 この後にも出てくる第二の事件の登場人物はそれを書くときに後述しようと思う。

 

舞台

ゲームA:1997年~8年に出した龍が如くで人気となっているパブリッシャーが出したゲーム作品。当時は婦(腐)女子に大人気だった。シリーズが続いていたナンバリングタイトルではあったが、この先シリーズは出ていないまま25年が経った。

ゲームB:同じパブリッシャーが出した2000年に出したオンライン専用ロールプレイングゲーム。もうここまで言うとモロバレ(笑)。専用コンシューマ機で遊んでいたもののよく故障して当時は千葉県某所のカスタマーセンターに本体を送った事が数回ある。因みに修理代はタダだったのは今でも不思議。同じ現象に遭遇したプレイヤー多数。

 今現在はナンバリングを「2」に変えてサービス継続中らしいが俺はプレイをしていない。今回の事件、そして後々の第二の事件を経てこのシリーズが嫌になったというのもある。ゲームは悪くないがな。

 

 ・・といった登場人物紹介を終えたので今回の話を書いていこう。

 

3.畏怖

 2001年11月のゲームB同人誌即売会から二か月後、2002年年明けて1月くらいだったと記憶している。

 俺は毎週末の集まりでいつものように22時過ぎくらいからゲームBに接続してオンラインサーバ内のロビーに立っていた。実をいうと、本来なら1月はゲームなんてやってる暇なかった。なぜなら3月末位にゲームAのオンリーイベントが当時毎年開催されていた(この流れは2007年か8年まで続いた)ため、原稿に着手すべき時期であったのだが、そんなことお構いなしでゲームを遊んでいた(笑)。いつも集まる面々がいるロビーにつくと、数人がログインしているのに気付いた。

 挨拶をすると、数人ロビーで話し合っていた。いつもの面々のうち何人かは部屋を作ってゲームを楽しんでいたと思う。ロビーにいないってことはそういう事なんだろうなーと思いながら他のメンバーと話していると、名さんとゆーさんが俺に近づいてきた。

名さんとゆーさんは俺が来る前から何か示し合わせていたのか、

ゆーさん「俺さん、ちょっと話があるんだけど、いい?」

俺「へ? いいよ。部屋作る?」

 そういうと二人はうんうんと言って、部屋を作った。部屋というのはゲーム内世界に入れるものであり、ロビーはオンラインサーバーに入ると最初に訪れる場所で、そこでプレイヤーと出会ってロビーの受付のねーちゃん(NPC)に話しかけて部屋を作ることでゲームの世界に降り立つことができる、といった仕組みである。そこで各エリアに降り立ってMOBと戦ってレベルやレアアイテムを探す・・といった具合に。

 因みに部屋には鍵をかけることもできて、所謂野良プレイヤーが入れないようにすることも可能だ。野良プレイヤーと遊ぶこともできるにはできるのだが、アイテム持ち逃げ、チートアイテムを配布などという、そういう害悪な輩も一定数、居た。それを防止するために鍵をかけた部屋を作ることもできた。

 名さんとゆーさんは部屋番号を俺にメール(シンプルメールというシステムがあって、短い文章を送ることができるメール機能)を送ってきたので、番号を入れて俺は部屋に入った。

 

 部屋に入るとアドベンチャーズギルドという、所謂クエストを受けることができる窓口的な部屋から物語はスタートするようになっていたため、そこに降り立つと二人は既に部屋に入って、こちらを向いていた。なんの話だろう、と思いながら俺は二人の言葉を待った。

ゆーさん「話ってのは、二か月後にゲームAのオンリーイベントあるよね」

俺「ええ、ありますね。確かゆーさんも名さんもサークル参加するんでしたよね。何かありました?」

 その時の俺はてっきり、泊まる場所がなくてとかいうのだったら、俺の親に話を付けて泊めさせてあげようかな、程度に考えていた。

 だが全く予想だにしていない言葉だったので最初は面食らった。

ゆーさん「そのイベント、ほかの人たちも来るじゃない。にーさんも沖さんも、友の会メンバー他にもくるし」

俺「そうなんですね、何人位来るのかな?」(友の会は当時40人以上在籍していたため、俺も交流していない人が多数いた)

ゆーさん「で、沖さんのことなんだけど、彼女のことハブろうと思うの」

俺「…………は?」

 

 マジで「は?」といったのを覚えている。ゲームのBGMは軽快で爽快な音楽が流れていたのだが、話している事はそれと真逆でなんとも仄暗い感情が渦巻いているようがして、いい気がしなかった。……ここで黙っていた名さんが口を開いた。

名「数か月前にゲームBのイベント行ったときのこと覚えてる?」

俺「覚えてるけど……その時何かあったの?」

名さん「その時東さんとこで泊まってたメンバーは私とゆーさんと沖さんとにーさんだったんだけど、その時ひどいことがあったんだよ」

俺「ひどいことって、どんな?」

ゆーさん「東さんがその時、私たちに今ハマってるBL作品(媒体は覚えていない)のことを話してたんだよ。こういうキャラクターがいて、こういう世界観が好きだって、そういう話で盛り上がってたんだ」

俺「ああ……そういやゲームBオンリーイベントでもその話してたよね」

 東さんが俺にノリノリでイケメンキャラクターの画像を見せながら今この作品が好きなんだ、って話していたのをふと思い出していた。全く作品名もキャラクターの顔すら覚えていないので何とも言えなかった(失礼)が、よほど好きなんだなーって熱意だけは伝わってきて、聞いてて楽しかったのを覚えている。

名さん「そうなんだよ。でね、沖さんがそのキャラクターのことを聞いて、なんかいけ好かなかったのか知らないけど、けなしたっていうか、おかしいって言ったっていうか、……ともかく、いい気がしない、私は好きじゃない、みたいな事を言ったんだよね。東さんに向かって」

俺「ふむ……」

ゆーさん「で、私たちもそれを聞いてげんなりしちゃって。東さんは傷ついてもう(沖さんだけは)泊めたくない! って言っちゃって。だから、友の会メンバーで来る人で泊まりたい人は、泊めさせるんだけど、彼女(沖さん)は断るつもりだって。当日まで泊めるつもりでいさせて、泊めさせられないって断るつもりだって」

 それを聞いて、俺はどうなのかと心の中がざわついた。沖さんは東京から遠く離れた島国にいる人だ。慣れない東京の土地に来て突然友達(と思っていた人)から、お前は泊めさせないよって蹴飛ばされたりしたらどう思うだろうか。心の中にどす黒い感情と、何とも言えない胸糞悪い感情が渦巻いていた。

 しかし、と思った。なぜそれを俺に話すのか、と。

俺「東さんが辛いのはわかったし、沖さんの言い方もまずかったと思うけど……」

 同意を見せると、二人はそうだよね、とうなずいている(チャットを返した)。そして、

ゆーさん「俺さんに話したのは、俺さんは東京から近い所に住んでるじゃない、で、イベントも来る。だから話を合わせておこうと思って。沖さんそんなことしちゃったから私たちも今後は彼女のことは無視するつもりだし」

名さん「私もそうするんだ、俺さんにもそうしてもらいたい」

 とまで言ってきた。

 

 マジでこの時俺は窮地に立たされていた。ゆーさんも名さんも友達だ。仲良くしたい。でも沖さんだって友達だし、俺は彼女の描く本が好きだった。気さくで明るくて、言いたいことをスパッという性格は賛否は別れるしそれが原因でこうなったのだからしょうがないとは思う。

 けど、俺はここで寄らば大樹の陰、をしていいのだろうか。この話を聞いたうえでオンリーイベントで沖さんを俺迄蹴ったら? 俺はそんな事ができる自分を許せるのか?

 ゆーさんと名さんが言う、東さんが傷ついたから私たちは同情している! 東さんを傷つけた人を許さない! と思う気持ちもわからなくはない。ゆーさんと東さんは仲が良かっただけに、そりゃ友達が傷つけられたら許さないだろう。友達思いなのがよくわかる。

 でもだからって、俺が彼女二人に賛同して沖さんを無視する理由には値しない。俺は三人とも平等に仲が良かったが、どっちにつくなんてことは俺にはできなかった。

 だから、

俺「申し訳ないが、俺はそんなことできない。ゆーさんも名さんも友達だが、沖さんだって俺には友達なんだ。東さんが言われたこと、傷ついたこともよくわかるけど、俺が沖さんを蹴っていい理由にはならないし、そうしたいとも思わない。この話は聞かなかったことにするから、俺は中立の立場を取らせてもらう。ごめん」

 こんなうまい言い方をしたとは思っていないが、自分が中立の立場をとるという事と、この話を聞かなかったことにすること(これは東さんの思いも、沖さんのことも配慮したつもりだった)で回避した。ここで俺が二人の手を取ったら沖さんは一人ぼっちになってしまう。それだけは避けたかった。仲が良かったからこそ、嫌だった。

ゆーさんと名さんは俺の気持ちを汲み取ったのか、わかった、とだけ言ってくれた。誰にも話さない事だけは誓ったので、彼女たちがオンリーイベントの時、沖さんを蹴るのはわかっていたが、それを俺が止めることもしないし、前もって話すこともしない、と。

 うまく自分の保身に走りやがって、と今なら思う。わかっているのにそれを伝えられない。伝えれば東さん側にはチクりやがって、と言われるだろうし、沖さんだっていい気はしないだろう。けど、言わなかったら沖さんはイベント当日、泊まる予定だったのを蹴飛ばされて路頭に迷うことになりかねない。

 どうすればいい? どうすれば?? ……そうぐるぐると堂々巡りをしながら、俺はその二か月後のオンリーイベント迄何一つ行動できないまま、当日を迎えることになった……

 

(4)へ続く。