オンリーイベントの恐怖(4)

 4.当日から、翌日まで

 

 2002年3月。日曜日。

 ゲームAのオンリーイベントが東京文具共和会館で行われた。

 今もここのイベント会場で同人即売会ってやってるんだろうか。当時はここは同人オンリーイベントのメッカ的会場で、ほぼ毎週末何らかのオンリーや同人即売会がやっていたのを覚えている。

 春の訪れはまだ少し早くて、少し肌寒かった。

 

 俺はその会場に行く足が重苦しかった。結局沖さんには何も言えず、他のメンバーとは変わりなくゲームBで遊んではいたが、少なくとも沖さんが当日まで水面下で行われていたことに気づける筈はなかっただろう。ゲームBでは変わらず一緒に遊んでいたし、周りは特段変わったそぶりを見せてはいなかった(と思う)。

 だからこそ当日参加する足取りが重かった。何も起きないでほしいと思いながら会場につき、遠方から来たゆーさんや名さんやにーさん、Wさんとも挨拶を交わして設営を始める。きゃいきゃいと嬌声が響く中、イベントはスタートした。

 イベントはつつがなく終わっていき、俺も本を買いまくり、ゲームB繋がり以外の友達ともおしゃべりをしながら一日があっという間に終わった。

 15時になり、イベントは盛り上がりを見せたまま無事に終了。俺を含む残っていた数人がイベント会場の机の撤収などを手伝い、主催者さんをねぎらいつつ、俺はゲームB繋がりのメンバーとは違う、別の人とアフターを予定していたのでそのメンバーと会場を出ようとした時だった。

 沖さん「俺さん!」

 俺「あ、沖さん! 今日は楽しかったね、おつかれさま(内心びくびくしながら言っていた)」

 沖さんは焦ったような表情を見せて俺に近づいてきた。その様子は狼狽したというか、憔悴したというか……とにかく、焦っていた様子だった。

 沖さん「突然で申し訳ないんだけど、今日俺さんの家に泊めてもらえることってできる?」

 彼女が本当に焦っていたのを今でも覚えている。普通、突然泊めてくれなんてさほど仲がいい人にすらいう機会はないだろう(俺は一度も経験がない)。そしてそれを、少なくともリアルでは殆ど関りがない(ゲームBでは関りがあるが)俺に言ってきた、……ということは、つまりほかのゲームB繋がりの人も、そうじゃない友の会繋がりの人(友の会メンバーでもゲームBを遊んでいない人はいた)も、頼れなくなったという意味だった。実際東さんやゆーさんが何を言ったのかは見ていないのでわからないが、それでも間違いなく「お前は泊めてやんないよ」と言ったのは違いなかった。

 俺はアフター行く友達を待たせてしまっていることも気にかけつつ、

 俺「突然は……まだ俺も実家暮らしだし、ちょっと難しいかな……」

 言葉を濁しつつそう言うしかなかった。俺の両親は厳格な人だったが、外面はいいので言えば快く泊めてくれることは出来ただろう。が、後から小言の一言二言が来るのは間違いないし、それに俺は別の友人とアフターをする予定だったため、沖さんと今から家に帰るのは嫌だった。自分の予定を狂わせられたくなかったのだ。

 自分勝手だと思う。けど待たせてる友達をいきなり割り込んできた人に譲らせる理由もない。……ので、そう言ったまでだった。正直ここまでの事で自分は何度も何度も究極の選択を迫られている状況だったため、解放されたかったというのもある。

 沖さんは、そうだよね……ごめん、と落胆した様子で去ろうとしたため、俺はあわてて「どうかしたの? 東さんところに泊めてもらうんじゃなかったの?」と聞いた。

 沖さんは力なく笑って「そうだったんだけどね……なんかできなくなっちゃったみたいで……」と言い残して会場を後にした。俺は何とも言えない後味の悪さを覚えながら、待たせていた友達と後を追うように会場を出たのだった。

 

 それから数時間後、友達とアフターをしている間も、俺はずっと心の中がもやもやしていた。

 沖さんがどうなったのか心配で仕方がなかった。

 友達は俺がふさぎ込んでいるせいで何度かどうかしたの、って聞いてきたけど、俺はごまかした。ゲームBやってないしその友達は友の会にも入っていないため、これ以上話を拡大させたくなかったのだ。

 なんだかんだ20時くらいまで打ち上げをして帰宅した後、どうしても俺は気になっていたので沖さんに電話をかけた。相手はガラケーを持っていたので、電話に出ることができた。

 俺「沖さん、大丈夫? 泊まるところ取れた?」

 沖さん「うん。ビジホだけど取れたよ」

 そう聞いてほっとした。その日は日曜日だったため翌日は平日。俺は会社に行く予定だったが、相手はもちろん有給を取得していた。本来ならば東さんやゆーさんにーさん名さんと東京観光を楽しみつつ帰路に着く筈だった。

 俺「それはよかった、安心したよ。明日はどうする予定なの?」

 沖さん「明日は夕方の便で沖縄に帰るから、それまで一人でフラフラどこか行く予定。ありがとうね」

 その後いくつかやり取りをして電話は切られた。宿は確保できたようでものすごくほっとした。けど明日は一人で観光するのか……と思うとどことなくやりきれない思いがあった。

 東さんたちも月曜日は休みを取って泊ってる人たちとどこか行くという話は聞いていただけに、沖さんだけぼっちなのもな……と思いながら月曜日の朝を迎えた。

 

 月曜日になっても俺の心は晴れなかった。味のしない朝ご飯を食べて会社に向かう。向かいながら沖さんは今日帰っちゃうんだよな~~……と思っていたら、俺は突然心の中である決意が浮かんだ。

 沖さんを見送りに行こう、と。仕事は午後半休を取って羽田前で合流して数時間でもおしゃべりとかして空港で見送ろうと思ったら、朝出勤後すぐ上司に午後半休をくれと申請した。

 中の人は当時も今も同じ会社に勤務しているが、まだ当時は入社3年目くらいのヒヨッコだったため、有休もあまり出すのが好きじゃなかったのだが(今は改善したが、当時は有給を取るだけで理由を言わないとだめだったのだ)、今回はすんなり受理されたので、俺は沖さんの携帯に電話をかけ、午後休みを取ったからそっちに行く! と伝えた。

 午後になり、俺は会社を出て沖さんと合流すべく浜松町へ向かった。浜松町はモノレール羽田線がある。そっから空港へ向かう前に落ち合おうと話をしたのだ。

 午前中は何をしてたのかと聞いたら、秋葉原とかそっちのお店を回っていたようだった。あまりほしいオタクグッズがないと言ってたので、次来たら中野のサンプラザ行こうか、などと談笑していると、沖さんのガラケーが鳴った。彼女は電話に出ると、こっちは大丈夫だから、とか、今俺さんがいるんだよ、とか話をしていた。誰から電話だろう? と思っていたら、沖さんがガラケーをこっちに渡してくれた。

 沖さん「俺さんと話したいって。ゆーさんから」

 俺「えっ? ゆーさん??」

 意外な人から電話だったので、促されるまま電話に出た。

 ゆーさん「俺さん? 今日仕事抜けて(沖さん所に)来たんだって?」

 俺「ああ、ゆーさん。昨日はお疲れさまでした。ええ、沖さんを見送ろうと思って休んじゃいました」

 ゆーさん「俺さんごめんね、なんか面倒な事巻き込んじゃって」

 俺「いえいえ、俺がそうしたいと思って来たんだからいいんです。ゆーさんたちも今日お帰りでしたよね? 気を付けてお帰りくださいね」

 そう話していると、電話を替わったのか名さんが話してきた。ゆーさん同様に俺さんごめんね、って言ってきたので、ゆーさん同様にいいえ、と返事を返す。そんなやり取りをして電話を切り、ガラケーを沖さんに戻した。

 俺「ゆーさんから電話だったから驚いた」

 沖さん「俺さんがくるって話をSMSに書いたから、それを読んで電話をかけてきたんだろうね」

 なるほど、沖さんが俺が送りにやってくるって話をしたのか。じゃなきゃ電話なんて掛けられないよなあ……と心の中で合点がいった。

 その後俺と沖さんは羽田空港へ向かい、空港内のお土産を吟味したりしながら一緒に行動し、チェックインを済ませて搭乗口前で見送った。また来年おいで、と話をして。

 彼女はありがとう、と笑いながら搭乗口へ向かっていった。ここでようやく、ずーっと1月からつっかえていた胸のつかえが取れたような気がした。

 

 それからずっと、2007年か8年迄の毎年3月にゲームAのオンリーイベントは開催されたが、沖さんはどれも参加をした。その後出てくるゲームB関連の同人誌も俺と一緒に出して、本を交換し、自分の扱ってるキャラクターを描いてるのを見てニヤニヤし、やがてそれから数年後俺が沖縄に旅行に行く際にお世話になることになる。それから約20年沖縄には行ってないが、彼女とのやり取りはXでもつながっている。

 沖さんはイベント以外でもちらほら東京に来ることがあったりして、その際も何度か会うことがあった。中野サンプラザにも連れて行き、えらく興味を引いたのか何度も連れて行くことが多かった(笑)。

 ゲームBではやがてゆーさん名さんはゲームBのバージョンアップ版といえるであろうGC版に移動したため、ゲームBで沖さんがゆーさん名さんと遊ぶ事はこの時点でなくなった。

 俺と沖さん、Wさん、その他数名はDC版で遊び続けることになったが、今後出会う人たちとの関わりによって第二の事件が発生し、俺はそこでゲームBから完全撤退を強いられることになる。

 しかしながら、今でも沖さんとは繋がっているため、俺は20年近く前のこの一連の事件の行動は間違っていなかった、と今でも思っている。

 

(5)へ続く。

オンリーイベントの恐怖(3)

 さてここから登場人物が一気に増えるので、登場人物のざっくりした紹介とこの世界の舞台についておさらいをしておこうと思う。

 

登場人物

・俺-これを書いている中の人。俺と言っているが体は女性、心は男性のトランスジェンダー。自覚症状はあったがそれを表立って言えるようになったのは5~6年前という近況っぷり。

・名さん-中部地方に住んでいる人。ゲームA同人サークル友達がきっかけで俺をゲームBの世界に引き込んだ沼住人。当時はそう思っていなかったが割とヤンデレ。以前使っていたX垢ではフォロワーだったが今現在は絡んでない。後述するゆーさん主催の友の会メンバーの一人。

・Wさん-静岡在住の人。今現在もミクシィ(笑)で繋がりがある。現在もサークル活動をしている大先輩。ゲームAでサークル活動をしていたことがきっかけで仲良くなり、俺がゲームBに引き込んだ一人。毎週ゲームBで遊び、コミケで会うと「またゲームBで会おうね!」が口癖になっていた。

・東さん-東京都に住んでた人。実家が広い家だったのか、よく遠方からゲームAのオンリーイベントに来る同人友達を泊めていた。この後の紹介のゆーさん繋がりでできた友の会メンバーの一人。さっぱりとした性格で当時出ていたPCゲームのBLゲーを推していたのを覚えている。姉御肌。ゲームBではほとんど会っていない。

・ゆーさん-東さんととても仲が良かった人。この話に出ていた当時は四国に住んでいたがその後都内に移り住んだという話を聞く。当時ゲームAのファンを集めた友の会を作って毎月会誌を出していた。俺も参加していた。おっとりとした人。ゲームBでも一緒にたま~に遊んでいた。

・にーさん-中国地方に住んでいた人。にーさんというが女性。ゲームAはシリーズ初期から遊んでいる人でWさんとほぼ同世代(若干下かもしれない)。後々俺にとんでもねー事をしてくる人(笑)。ゲームBでは毎週一緒に遊んでいた。ゆーさん主催友の会メンバーの一人。

・沖さん-沖縄県在住の人。現在もTwitter(X)で繋がりがある数少ない当時を知る一人。ゲームA好きが繋がりでオンリーイベントを経て俺とも交流をするようになった。ゲームBでも毎週末遊んでいた。友の会メンバーの一人。第一の事件では大きく絡んでくる。

 

 この後にも出てくる第二の事件の登場人物はそれを書くときに後述しようと思う。

 

舞台

ゲームA:1997年~8年に出した龍が如くで人気となっているパブリッシャーが出したゲーム作品。当時は婦(腐)女子に大人気だった。シリーズが続いていたナンバリングタイトルではあったが、この先シリーズは出ていないまま25年が経った。

ゲームB:同じパブリッシャーが出した2000年に出したオンライン専用ロールプレイングゲーム。もうここまで言うとモロバレ(笑)。専用コンシューマ機で遊んでいたもののよく故障して当時は千葉県某所のカスタマーセンターに本体を送った事が数回ある。因みに修理代はタダだったのは今でも不思議。同じ現象に遭遇したプレイヤー多数。

 今現在はナンバリングを「2」に変えてサービス継続中らしいが俺はプレイをしていない。今回の事件、そして後々の第二の事件を経てこのシリーズが嫌になったというのもある。ゲームは悪くないがな。

 

 ・・といった登場人物紹介を終えたので今回の話を書いていこう。

 

3.畏怖

 2001年11月のゲームB同人誌即売会から二か月後、2002年年明けて1月くらいだったと記憶している。

 俺は毎週末の集まりでいつものように22時過ぎくらいからゲームBに接続してオンラインサーバ内のロビーに立っていた。実をいうと、本来なら1月はゲームなんてやってる暇なかった。なぜなら3月末位にゲームAのオンリーイベントが当時毎年開催されていた(この流れは2007年か8年まで続いた)ため、原稿に着手すべき時期であったのだが、そんなことお構いなしでゲームを遊んでいた(笑)。いつも集まる面々がいるロビーにつくと、数人がログインしているのに気付いた。

 挨拶をすると、数人ロビーで話し合っていた。いつもの面々のうち何人かは部屋を作ってゲームを楽しんでいたと思う。ロビーにいないってことはそういう事なんだろうなーと思いながら他のメンバーと話していると、名さんとゆーさんが俺に近づいてきた。

名さんとゆーさんは俺が来る前から何か示し合わせていたのか、

ゆーさん「俺さん、ちょっと話があるんだけど、いい?」

俺「へ? いいよ。部屋作る?」

 そういうと二人はうんうんと言って、部屋を作った。部屋というのはゲーム内世界に入れるものであり、ロビーはオンラインサーバーに入ると最初に訪れる場所で、そこでプレイヤーと出会ってロビーの受付のねーちゃん(NPC)に話しかけて部屋を作ることでゲームの世界に降り立つことができる、といった仕組みである。そこで各エリアに降り立ってMOBと戦ってレベルやレアアイテムを探す・・といった具合に。

 因みに部屋には鍵をかけることもできて、所謂野良プレイヤーが入れないようにすることも可能だ。野良プレイヤーと遊ぶこともできるにはできるのだが、アイテム持ち逃げ、チートアイテムを配布などという、そういう害悪な輩も一定数、居た。それを防止するために鍵をかけた部屋を作ることもできた。

 名さんとゆーさんは部屋番号を俺にメール(シンプルメールというシステムがあって、短い文章を送ることができるメール機能)を送ってきたので、番号を入れて俺は部屋に入った。

 

 部屋に入るとアドベンチャーズギルドという、所謂クエストを受けることができる窓口的な部屋から物語はスタートするようになっていたため、そこに降り立つと二人は既に部屋に入って、こちらを向いていた。なんの話だろう、と思いながら俺は二人の言葉を待った。

ゆーさん「話ってのは、二か月後にゲームAのオンリーイベントあるよね」

俺「ええ、ありますね。確かゆーさんも名さんもサークル参加するんでしたよね。何かありました?」

 その時の俺はてっきり、泊まる場所がなくてとかいうのだったら、俺の親に話を付けて泊めさせてあげようかな、程度に考えていた。

 だが全く予想だにしていない言葉だったので最初は面食らった。

ゆーさん「そのイベント、ほかの人たちも来るじゃない。にーさんも沖さんも、友の会メンバー他にもくるし」

俺「そうなんですね、何人位来るのかな?」(友の会は当時40人以上在籍していたため、俺も交流していない人が多数いた)

ゆーさん「で、沖さんのことなんだけど、彼女のことハブろうと思うの」

俺「…………は?」

 

 マジで「は?」といったのを覚えている。ゲームのBGMは軽快で爽快な音楽が流れていたのだが、話している事はそれと真逆でなんとも仄暗い感情が渦巻いているようがして、いい気がしなかった。……ここで黙っていた名さんが口を開いた。

名「数か月前にゲームBのイベント行ったときのこと覚えてる?」

俺「覚えてるけど……その時何かあったの?」

名さん「その時東さんとこで泊まってたメンバーは私とゆーさんと沖さんとにーさんだったんだけど、その時ひどいことがあったんだよ」

俺「ひどいことって、どんな?」

ゆーさん「東さんがその時、私たちに今ハマってるBL作品(媒体は覚えていない)のことを話してたんだよ。こういうキャラクターがいて、こういう世界観が好きだって、そういう話で盛り上がってたんだ」

俺「ああ……そういやゲームBオンリーイベントでもその話してたよね」

 東さんが俺にノリノリでイケメンキャラクターの画像を見せながら今この作品が好きなんだ、って話していたのをふと思い出していた。全く作品名もキャラクターの顔すら覚えていないので何とも言えなかった(失礼)が、よほど好きなんだなーって熱意だけは伝わってきて、聞いてて楽しかったのを覚えている。

名さん「そうなんだよ。でね、沖さんがそのキャラクターのことを聞いて、なんかいけ好かなかったのか知らないけど、けなしたっていうか、おかしいって言ったっていうか、……ともかく、いい気がしない、私は好きじゃない、みたいな事を言ったんだよね。東さんに向かって」

俺「ふむ……」

ゆーさん「で、私たちもそれを聞いてげんなりしちゃって。東さんは傷ついてもう(沖さんだけは)泊めたくない! って言っちゃって。だから、友の会メンバーで来る人で泊まりたい人は、泊めさせるんだけど、彼女(沖さん)は断るつもりだって。当日まで泊めるつもりでいさせて、泊めさせられないって断るつもりだって」

 それを聞いて、俺はどうなのかと心の中がざわついた。沖さんは東京から遠く離れた島国にいる人だ。慣れない東京の土地に来て突然友達(と思っていた人)から、お前は泊めさせないよって蹴飛ばされたりしたらどう思うだろうか。心の中にどす黒い感情と、何とも言えない胸糞悪い感情が渦巻いていた。

 しかし、と思った。なぜそれを俺に話すのか、と。

俺「東さんが辛いのはわかったし、沖さんの言い方もまずかったと思うけど……」

 同意を見せると、二人はそうだよね、とうなずいている(チャットを返した)。そして、

ゆーさん「俺さんに話したのは、俺さんは東京から近い所に住んでるじゃない、で、イベントも来る。だから話を合わせておこうと思って。沖さんそんなことしちゃったから私たちも今後は彼女のことは無視するつもりだし」

名さん「私もそうするんだ、俺さんにもそうしてもらいたい」

 とまで言ってきた。

 

 マジでこの時俺は窮地に立たされていた。ゆーさんも名さんも友達だ。仲良くしたい。でも沖さんだって友達だし、俺は彼女の描く本が好きだった。気さくで明るくて、言いたいことをスパッという性格は賛否は別れるしそれが原因でこうなったのだからしょうがないとは思う。

 けど、俺はここで寄らば大樹の陰、をしていいのだろうか。この話を聞いたうえでオンリーイベントで沖さんを俺迄蹴ったら? 俺はそんな事ができる自分を許せるのか?

 ゆーさんと名さんが言う、東さんが傷ついたから私たちは同情している! 東さんを傷つけた人を許さない! と思う気持ちもわからなくはない。ゆーさんと東さんは仲が良かっただけに、そりゃ友達が傷つけられたら許さないだろう。友達思いなのがよくわかる。

 でもだからって、俺が彼女二人に賛同して沖さんを無視する理由には値しない。俺は三人とも平等に仲が良かったが、どっちにつくなんてことは俺にはできなかった。

 だから、

俺「申し訳ないが、俺はそんなことできない。ゆーさんも名さんも友達だが、沖さんだって俺には友達なんだ。東さんが言われたこと、傷ついたこともよくわかるけど、俺が沖さんを蹴っていい理由にはならないし、そうしたいとも思わない。この話は聞かなかったことにするから、俺は中立の立場を取らせてもらう。ごめん」

 こんなうまい言い方をしたとは思っていないが、自分が中立の立場をとるという事と、この話を聞かなかったことにすること(これは東さんの思いも、沖さんのことも配慮したつもりだった)で回避した。ここで俺が二人の手を取ったら沖さんは一人ぼっちになってしまう。それだけは避けたかった。仲が良かったからこそ、嫌だった。

ゆーさんと名さんは俺の気持ちを汲み取ったのか、わかった、とだけ言ってくれた。誰にも話さない事だけは誓ったので、彼女たちがオンリーイベントの時、沖さんを蹴るのはわかっていたが、それを俺が止めることもしないし、前もって話すこともしない、と。

 うまく自分の保身に走りやがって、と今なら思う。わかっているのにそれを伝えられない。伝えれば東さん側にはチクりやがって、と言われるだろうし、沖さんだっていい気はしないだろう。けど、言わなかったら沖さんはイベント当日、泊まる予定だったのを蹴飛ばされて路頭に迷うことになりかねない。

 どうすればいい? どうすれば?? ……そうぐるぐると堂々巡りをしながら、俺はその二か月後のオンリーイベント迄何一つ行動できないまま、当日を迎えることになった……

 

(4)へ続く。

オンリーイベントの恐怖(2)

 

2.第一の事件

 事件というとちょっと物騒な感じがするが、自分にとっては事件に近いようなもんだったのでこう呼ばせてもらう。

 1で話した通り、自分はゲームAで同人活動を続ける合間にゲームBというオンラインゲームにドはまりし、そのゲームを週末のみではあるが友達や知人同士で集まってわいわい遊んでいた。オンラインゲームといってもゲームBはMMOではなくMOの形なので、数あるロビーのうちから内輪で集まるロビーを決め、そこを根城に週末集まってチャットしたり、部屋(ルーム)を作って4人チームでレベル上げやダンジョン(?)攻略を目指すといった、今となってはシンプルなものだったが、オンラインゲーム黎明期だった当時は斬新でとても楽しかった。

 楽しめた理由の一つはゲームもそうだが、当時公式HPにあったBBS(今となっては化石レベルに近いツリー形式の物)を活用して集まれたのも大きな理由の一つだろう。そこに書き込み、ここでこういう集まりやってます、というと興味を持った人がその場所へ向かい、交流をする、といった具合だった。当時はリアルタイムで交流はまだまだ程遠いレベルだったため、BBSの活用は活発だった。

 そしてそのBBSに自分の友達が、ゲームAで集まりやってます! 好きな人来てね~的な事を書き込みした事で、ゲームAが好きな人たちが、ゲームBのロビーにわっと集まった。他の集まりから合流した人たち含め、毎週末はロビーでゲームAキャラの名前を作ったキャラクターを持ってきて一緒に遊んだりする事が続き、それはそれは楽しかった。

 

 そんな中、2001年11月某日、都内某所でゲームBの同人誌即売会があるとしったのは開催される半年くらい前。自分のところにもそのペーパー(チラシ)がきて、こういうイベントあるんだ! ってゲーム内でも告知した。都内に近い人、遠いけど行きたい人は都内に住んでるゲームB(A繋がりでもある)友達の家に泊まろう! ってことで皆で行くことになった。

 ちなみに俺はそのイベントにはサークル参加はしていない。そのイベントが開催された当時はゲームBの同人誌は作っていなかった(後々作ることにはなるのだが)し、オンリーイベントの開催告知HP見ると、なんとすぐサークルスペースが埋まってしまっていたというのを聞いたからというのもある。

 自分は都内ではないが東京都の隣県だったが、当時はまだ実家を出ておらず実家の両親はゲームに難色を示す人だったため、友達を呼ぶことはほとんどなかった(その後紆余曲折を経て泊まった人は数人いるが)。

 なので当日は自分は一人でその会場に向かった。……事を後悔することになったのは会場ついた直後。

 会場の建物からあふれるほどの人だらけ。コミケ会場はここは?! と見まごうほどの人の行列。そしてその人だかりは全員ゲームBのオンリーイベントに行きたい人だっていうのだから驚いた。俺は一人で向かっていたのと、当時中の人はケータイ(後にガラケーと呼ばれる奴だ)を持っていなかったので、会場で友達たちと落ち合うなんてとてもじゃないが簡単な事じゃなかった。入場待機列に待ったものの、自分一人だけ入ってもな、、、と思っていたら、静岡からやってきたWという友達が目についた。(コミケで何度か顔を合わせている人で現在も繋がりがある)

俺「Wさーん!」

W「あ、俺さん、何この行列?!」

俺「全員待機列だって。入るのにだいぶかかるらしいよ、どうする? 他の皆とも落ち合えてないし……」

 と友達に遭えたので俺は安心したが、ほかの遠方からきている友達やその友達を泊まらせている人たちとも会えていない(因みに泊まらせている友達は顔を少しだけ覚えていた)。どうしようか、と話しながらも俺はいったん待機列から離れた。(さすがに静岡から来た友達を割り込ませるわけにもいかなかったので)

 

 その後、もうだいぶ前の話なのでうろ覚えなのだが、なんとか都内の友達と合流できた。その時実際に遭って話したのは、愛知県、広島県愛媛県沖縄県からきていた人たちだった。もちろん全員女性。うち愛知県の人は前回話した友達である。

 無事に合流して、なんだかんだそのゲームBのイベントは閉場ぎりぎりで入場できたものの、サークルは残っていたが頒布物はほぼなくなっていたのを覚えている。それでも残っていた本を買って、無事に会場を後にした。その時皆でこの後アフター行こうよ、ってなって、都内の友達+4人、俺とWさん、あとオンリーイベントでサークル参加していた人たち、ほか数人とどこかの居酒屋だったかに入り、皆で打ち上げをした。

 最初に知らない人もいるから自己紹介とゲームBのキャラクター名前を教えてってなって、全員こういうキャラクターを使ってまーす、見かけたらよろしくねー! みたいな終始にぎやかなままアフターは終了。もう20年以上前の話なので全く覚えていないのだが、その後静岡の友達を見送りに東京駅まで行って新幹線ホームで別れ、俺は帰路についた。

 全員と別れる前に、次はゲームAのオンリーイベントで会おうね! なんて話しながら。

 

 そんな楽しかった2001年11月の秋葉原の一端、年が明けて2002年に、俺は最初の地獄に突き落とされる事になる。今話してきたゲームBのオンリーイベントで、俺の知らない間に何が起きていたのかを知る羽目によって………。

 

(3)へ続く。

オンリーイベントの恐怖(1)

 中の人が約30年近く同人活動してきた中で、最も辟易……というより、もっともうんざりした経験がある。

 その一連の事件は、自分が発端となって起こしたわけでもなければ、自分のせいで誰かに火の粉がかかったわけでもない。

 ただ、とあるきっかけで、そしてそれが一度ではなく複数回……というより毎年必ずあったせいもあって、自分の中で一時期、オンリーイベントがトラウマになってしまった事があった。

 全く自分に非はないし、ほぼ中立的な立場でいたのに、いつの間にか自分が悪者扱いされていた……そういう経験、した人はあるだろうか?

 そして仮にもし、自分がそういう立場に立たされた場合、どういった行動をすべきだったのか?

 20年以上たった今も、自分の中では一切、解決は生み出せないし、禍根を残したまま、当時の人間関係はばらばらになってしまった。……しかしながら、自分が唯一、手を出した(という言い方もおこがましいというか、厚かましく感じられるかもしれないので、上から目線で言うのは今回限りとする)人とは今もSNSの世界で細く長くつながっている。もうそれこそ十数年会ってはいないけど、近況をたまに話す程度の付き合いは続いている。

 

 今回から、複数回に分けて話すのは、とあるゲームジャンルのオンリーイベントがきっかけで、色々とひと騒動が起きてそれが10年近く続いたという、長い長い話をしていこうと思う。

 

1.前提

 前提として挙げたのは、この長い話をするにあたって、とある二つのゲーム作品が絡んでくる。そのゲーム作品は、開発は違えどパブリッシャーは同じだった。発売年度が3年ほど違うだけなのという位で、ジャンルはRPGというひとくくりでまとめれば同じではあったが、時代設定がまるで違うゲームだ。3年前に出たゲームをA、3年後に出たゲームをBとする。

 自分は当時、Aのゲームで同人活動をやっていた。地方イベントで細々本を出していたがさっぱり売れなかったため、都内のイベントに出たところ即完売したという事もあり、ほぼビッグサイトで行われるComic Cityやコミックライブ等に参加しては同ジャンルの人と交流をしていた。20代初頭というのもあって、アグレッシブというより無謀の方が勝っていたが、自分の本もそこそこ売れていたのもあって、交流も売り上げもまあまあ順調だった。

 そんなゲームAのオンリーイベントが開催されるというのを聞いて、もちろん自分は即応募した。このイベントではまだまだ顔見知りといった人はほぼいなかったのもあって、特に何の問題もなく完了した。ここで売った本がきっかけで手紙(2008年Twitterが出るまでリアルタイムでの交流などなかったのだ)が来ることもしばしばあった。この時はオンリー最高! 好きなゲームの本沢山買えて最高! とほくほくしていたのを覚えている。

 

 そしてそれがきっかけで、自分は中部地方に住んでいるゲームAが好きな友達と出会い、ネットで電子メール(笑)をやりとりし始める。ポストペットが流行っていた時代だった。自分はじんぱちを使っていた(笑)。

 そしてその友達が中部地方のイベントに出るというので、(今もあるポートメッセなごやである)じゃあ自分も参加する! という事で新幹線のぞみを使って一路名古屋へ行った。当時のぞみはまだ開通したてで、TOKIOのambitious,Japan! の歌が新鮮で聞きながらのぞみ号に乗っていたのを今でも覚えている。

 宿泊は友達が家で寝るといいよというので、お邪魔させてもらった。色々と生活観が違いすぎて自分の中では二度目はないなと思った(失礼)。そしてその時教えてもらったのが、ゲームBという作品だった。

 これは当時ではパソコン以外では出ていなかった、電話回線を通じてオンラインで遊べるネットワーク対応のゲームだった。それがコンシューマ機で遊べたのだ。

 大体ここまで言えば、自分と同世代の人は「あああのゲームだな」と察しはつくと思う。それほど大衆的にも売れたゲームだし、当時は一躍人気を得ていた。そんなゲームを教えてもらったものだから、自分は友達の家で遊んだだけでハマってしまい、関東(自分は関東甲信越住まいだ)に戻り次第すぐゲームソフトを買い求め、夜な夜なオンラインの世界に興じた・・・・わけでもなく、週末に友達と寄り合って遊ぶのが当たり前になった。これが2000年~2004年くらいまで続いた。

 

 そしてこれが自分がやがてオンリーイベントへのトラウマを植え付けるきっかけとなる……などとは、当時の自分には思いもよらなかった。

 

(2)へ続く。

このブログはどのような活動を経て開設されたのか

 はてブロに書くのは初めましてなので、はじめまして。

 最初はどういった趣旨でこのブログを開設したとか、どういうジャンルでこのブログを作っていくかを説明しようと思う。

 ブログタイトルだけじゃわからないと思う点も踏まえ、自分がどういったやつで、どういう活動を経て活動を終わらせたのち、こういうのを書く気になったのか、などなどを載せたうえで、定期的に更新をしていくつもりだ。

 ある程度書き終わった(書くことが尽きた)ら、ブログの更新は停止すると思う。

 そこのところはよろしくお願いします。

 

目次↓

 1.書いてる人の遍歴

 2.なぜこのブログを開設したか

 3.このブログの更新頻度と、更新する記事の内容

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